VideoNews 2013.4.13.「北朝鮮は世界から孤立しているわけではない 」宮本×神保(視聴メモ)
【概要】
基本は米朝対立。お互いに外交交渉でボタンを掛け違えて、朝鮮戦争以来最大の緊迫。北朝鮮は非同盟諸国を中心とするアフリカや中東と親密な関係を結んでいるので、経済制裁で言うことを聞かせることは出来ない。北朝鮮は工業国、核ミサイル開発できるほど技術力は高い。官僚や党幹部が米国との関係に悲観して最悪の事態になることもありうる。個人独裁ではなく一党独裁なので、正恩一人の問題ではない。
【視聴動画】
VideoNews ニュース・コメンタリー (2013年04月13日)
「北朝鮮は世界から孤立しているわけではない」
インタビュー:宮本 悟氏(聖学院大学基礎総合教育部准教授)
単なる北朝鮮ウォッチャーではなく、政策決定過程の研究も詳しくしている先生らしい。
http://www.youtube.com/watch?v=UBQLvv60Nk4&feature=youtu.be
【情勢】
ミサイルを発射する構えを見せている。朝鮮戦争以来、最大に緊迫している。
どこに打つか分からない、核を載せるかもしれない。在韓米軍も、戦争が起こるデッドラインが近いと判断している。
今撃っちゃえば、北朝鮮の今後のことを考えると意味がない手なので、撃つわけないが、アメリカは分からない、と考えている。
そのため、アメリカがミサイル基地を先制攻撃するかもしれない。そうすると、北朝鮮は百倍返しせざるを得ない。
ちょっとしたきっかけで、北朝鮮とアメリカの間で戦争が起こるかもしれない。そして、韓国や日本が巻き込まれる可能性も高い。
【今の情勢の原因】
今の問題は、基本的に米朝対立。韓国と日本は、それに付随している。
アメリカと北朝鮮は、昔から外交チャンネルで対話を重ねてきたが、ボタンのかけ違いによって、北朝鮮の核武装しか帰結を生まなかった。
北朝鮮には、「アメリカにいつ攻め込まれるか分からない」という恐怖感がある。だから、核武装に至っている。
アメリカは、「核開発する国と平和共存できるはずがないから、認めない」という態度で、また「あんな国に核開発が出来るわけがない」と思っていた。
【歴史】
第二次大戦末期、日本は現在の北朝鮮の地域に「軍需産業」をかなり移転していた。当時の「大日本帝国」で最大の「工業地帯」だった。だから今の北朝鮮に繋がる基盤が出来た。朝鮮戦争でかなり破壊もされたが、ソ連の支援で復興している。
【工業国】
農業国ではなく工業国で、一般市民の知識レベルも高い。北朝鮮の食糧危機は、食糧を輸入できないから起こっている。食料を輸入に依存している、と言う点では日本と同じ。
90年代の大量餓死のニュースで、国際社会は「北朝鮮の経済はぼろぼろだ、そんな国力の低さでは核開発などできない」と誤認した。
【技術開発】
ミサイルや核の開発の技術力は、ソ連に留学した技術者の成長による。北朝鮮に原子力発電所を持ち込んだのはソ連。核を爆発させる技術は、パキスタンなどの闇ルートから得たのではないか。そして、その知識を理解できるレベルの技術者がいる。
【国際関係】
北朝鮮は、基本的に「非同盟諸国」のメンバー。冷戦時代にアメリカにもソ連にも組しない国々として発足。韓国は、アメリカ陣営とみなされて「非同盟諸国」には入れなかった。
北朝鮮はアフリカの国連加盟国すべてと国交を結んでおり、韓国とアフリカ諸国との関係よりも親密な関係を築いている。
北東アジアでは、確かに北朝鮮は孤立しているが、アフリカや中東の「非同盟諸国」からすれば、「アメリカが北朝鮮をいじめている」ように見えている。武器売買や軍事交流も盛ん。
国連加盟国190か国のうち、170か国と国交を結んでいる。 ドイツも結んでいる。イギリス、スウェーデンは平壌に大使館もある。
北朝鮮は王国を嫌う傾向があり、中東の王国とは国交を結んでいないことが多い。理念的には、封建社会を脱していない国とは付き合えない、と言う立場。
韓国と北朝鮮と両方と国交を結んでいる国は多い。ただし、韓国と国交を結ぶのを非常に嫌った国も多い。カンボジアは、シアヌーク殿下が金日成と親友であったので、韓国と結びたがらなかった。しかし殿下も年老いたので、韓国と仲良くしたい国内勢力を抑える力が落ちて韓国と国交を結んだ。
エジプトも、韓国と国交を結んだのは最近。第4次中東戦争のとき、北朝鮮は空軍を派遣してエジプトとシリアを助けた。その恩義がある。
イラン・イラク戦争にも参戦し、北朝鮮はイランについた。イランは革命が起こって、それまでのアメリカから輸入していた武器が更新できなくなった。そこへイラクに攻め込まれたから、どこでもいいから武器を調達しなければならなかった。その時に、アメリカを敵に回してでも武器を売ってくれたのが中国と北朝鮮だった。イラン・イラク戦争は精度の高い武器を使ったものではなく、肉弾戦に近い形だった。そういう時に使えるのは、荒く使っても壊れない武器。北朝鮮の武器は、作りがシンプルで使いやすかった。カラシニコフみたいなもので、壊れにくい。水で洗っても整備できる。
【体制】
個人独裁ではなく、一党独裁。官僚から上がってきた報告書、提案書に対して「NO」と言うのは、3代目のジョンウンには難しくなってきている。
アメリカと北朝鮮の国際政治の失敗が重なっている。核を持たなかったイラクの末路も考えて、党幹部の絶望が深まれば、最悪のシナリオもありうる。
【核放棄】
南アフリカは放棄したが、それは「持っているという情報」をそれまで出していなかった。「捨てました」という情報が、初めに出た。
しかし北朝鮮は「持っている」という情報を出しているので、「捨てるとイラクのように攻め込まれる」という風に考えることになる。
【危機回避】
北朝鮮がバスケットボール選手のロッドマンを呼んだが、アメリカが断った。しかしあれは、ジョンウンによる、ある種の緊張緩和のメッセージだったのかもしれない。
北朝鮮とアメリカのお互いの体面が傷つかないような方法で、緊張緩和を進める外交手法が求められる。
【軍備】
アメリカ本土に対しては、ミサイルしか攻撃手段がないが、韓国や日本に対しては、潜水艦や戦闘機で核を落とすことはできる。漁船に核を乗せて港湾施設に突っ込む、という戦法もあるかも。
通常兵器が劣化していて、兵装が薄い、と言われがちだが、朝鮮半島の地形を考えれば、大平原での戦車部隊による物量戦はあり得ない。山岳戦や、都市部での白兵戦が主になる。
【もし戦争になったら】
もちろん、最終的には韓国が勝つとは思うが、韓国にも相当な被害が出る。その被害を、韓国が受け入れられるか。受け入れられないだろう。勝ち目がない戦争でも、北朝鮮が体制が崩壊するまで徹底的に戦えば、大変な被害が出る。
二次大戦の日本も同じであった。戦争というのは、他に外交手段が無くなったときに、負けを承知で悲観的に始められることもある。「半年ぐらい頑張って暴れまわったら、もしかしたら相手が和平を提案してくるんじゃないか」という。
【中国】
中国が北朝鮮の暴発を抑える、ってことは無いのか? 無理。90年代から、中国と北朝鮮の関係は冷え切っている。
冷戦時代、「ソ連-中国-北朝鮮」vs「アメリカ-日本-韓国」で戦ってきたのに、まずソ連が韓国と国交を結び、次いで中国が韓国と国交を結んだ。北朝鮮からすれば、中国は裏切り者である。
北朝鮮の孤立の原因を作ったのは、ソ連と中国。一度裏切られた中国を、北朝鮮が信頼できるはずない。中国との経済交流の規模と、政治的信頼関係は別次元。
【日本】
出来ることは非常に限られている。希望的観測かもしれないが、以下のストーリーがあり得るかもしれない。
北朝鮮は、アメリカとや韓国と結んだ核に関する協定をすべて破棄した。しかし、核に関して日本と結んだ「日朝平壌宣言」は破棄していない。
今の安倍首相が、その宣言を結んだ時に同行している。だから、日本が秘密裏に北朝鮮に特使を使わして、北朝鮮とアメリカの仲介役を演じられれば、戦争に傾いてきた情勢を、平和の方向へ戻せるかもしれない。
ただ、今から外交ルートを作って、信頼関係も作るには、少なくとも半年はかかるだろう。間に合うのかどうか。安倍首相は、「日朝平壌宣言」に否定的だし。
外務省は動けるか。これまでに、2002年の歴史的な首脳会談を準備した外務省の田中均を、日本社会は徹底的に叩いた。だから、そんなリスクを負ってまで動く人はいないだろう。
民間レベルでは、期待できない。これまでに、日本は北朝鮮と関係を持つための人材を育成してこなかったため、層が薄い。
外務省と内閣官房がばらばらに動いて、互いに潰しあう、という不整合を無くして、情報を統括する組織を作らなければいけない。
<Wiki「田中均」より>
”首脳会談そのものは高く評価されたが、田中はこれらの交渉の中で日朝国交正常化を優先し、拉致被害者問題を軽視したとの批判に曝され、普天間基地交渉でも行なわれた隠密交渉を好む「秘密外交」スタイルとも相俟って、一官僚としては異例な程に、一部のマスコミから激しく糾弾された。なお、同年10月に帰国した拉致被害者5人については、北朝鮮への一時帰国が事実上合意されていたことを明らかにしている。”
【韓国】
前政権は、北朝鮮が核放棄、経済開放を進めれば、GDP一人3000ドルになるまで支援する、という政策。
現政権は、核放棄や経済開放の条件を付けていない。まず交流ありき。しかし、現状は真逆を行っている。アメリカを含めた大きな流れに潰された。
【今後】
米韓の合同軍事演習が終わるので、それ以降に緊張緩和のチャンスが来るかもしれない。また、金日成の誕生日はフェスティバルになるので、その前の時点もチャンス。
おわり