jizakiの備忘録

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VideoNews2013.4.13.「こうして北朝鮮は世界を振り回し続ける」武貞×宮台×神保(視聴メモ)

【概要】

言われているような「瀬戸際外交」ではない。正恩は相当にしたたかな指導者。「核保有国」としてアメリカと対等に交渉し、南北統一の「偉業」を果たそうとしている。

 

【視聴動画】

マル激トーク・オン・ディマンド 第626回(2013年04月13日)

「こうして北朝鮮は世界を振り回し続ける」

ゲスト:武貞秀士氏(東北アジア国際戦略研究所客員研究員)
防衛庁に勤めていて、今は韓国の大学の教員。安倍内閣の北朝鮮問題懇話会のメンバー。
 
 
【状況】
北朝鮮がミサイルを格納庫から出したり入れたり、上げたり下げたりしていて、今にも打ちそうな動作をしている。
核を保有した北朝鮮が、ミサイルをワシントン、ソウル、東京に向けていて、自信に満ちている。そのことが、アメリカの政策決定者の危機感を生んでいて、アメリカ市民にも伝わっている。
しかし、北朝鮮では平壌でマラソン大会が予定されていたり、グーグルの会長やバスケ選手を呼んだりしていて、とても戦争前の雰囲気にも見えない。
これは、どういうことか。
アメリカをはじめとする国際社会はその意図を読みかねている。どこまでがブラフで、どこまでが本気か分からない。情報の非対称性があり、右往左往すると思うツボ。
 
【意図】
北朝鮮の体制自体は、金正日の時と変わっていない。
アメリカ本土を攻撃できる核を持ったことで、これまでの国際協定(韓国との不可侵協定など)を白紙撤回して、新たに国際関係を結ぼうとしているのかもしれない。「核保有国として、対等に扱え」、と。
北朝鮮の幹部は朝鮮戦争の経験から、アメリカがいる限り朝鮮半島の南北統一は難しいと判断してきた。しかし、米本土も刺せる核を持ったことで、アメリカが自国本土を犠牲にする覚悟までして朝鮮半島有事に介入するかどうか。介入の程度は弱まるだろう。核の傘に、切れ目が入るだろう。そう考えているのではないか。
南北朝鮮統一のためには、在韓米軍に撤退してほしい。そして、半島有事の時にも米軍は介入しないと約束してほしい。でないと、ワシントン、ニューヨーク、火の海になるぜ? 
もし、北朝鮮がアメリカに対してそこまで勝ち取れれば、ローテクの地上兵器でも、韓国を統一できる、という読み。
 
【外交】
そう読むと、北朝鮮が今のタイミングで核弾頭を載せたミサイルを撃つ、ということは絶対に有り得ない。全面戦争したくないのは、どの国も同じ。ただし、新型ミサイル・ムスダンの試験発射はありえるかも。アメリカを牽制するため、大陸間弾道弾としての実績を積んでおきたい。ムスダンをどの陸地にも墜ちないように4000km飛ばして、太平洋に落とす実績を積みたい。
この実績を積めば、中東からも声がかかるだろう。中東はヨーロッパを射程に収める核ミサイルが欲しいから。北朝鮮はソ連から、潜水艦から発射できる大陸間弾道弾を改良してムスダンを作った。イランはこれが欲しい。
 
【なんちゃって】
の可能性も大きい。いつ撃つか、朝撃つのか、昼撃つのか、という状況を作って、世界の情報機関を翻弄する。で、このまま5月になったらどうなるか。軍事・諜報部門では北朝鮮の殊勲賞になる。このような情報戦による翻弄は、北朝鮮は長けている。
4月は「軍事演習の季節」で、半島は軍事的にどうしても騒がしい。しかし、5月に入ると、米朝の対話が始まるだろう。
 
【近代化】
しかし、これで北朝鮮が世界に対して勝利した、成功した、とは言えないだろう。成功したと言われる国は、「近代化」に成功している。今頃になって「国産の自転車」を開発できた国が、近代化しているとはとても言えない。
 
【核で繁栄】
(神保:しかし、そんな国が「核ミサイル」を開発できたのも、ある意味凄い。)
旧ソ連も、バターやパンに事欠く市民生活でも、宇宙工学ではアメリカに先行していた。これは、社会の力を軍事に集中していたから。北朝鮮も同じ。
北朝鮮は、最近になって「軍事と経済の両輪」の確立を唱え出した。おそらく、ミサイルを中東に売って石油や食料を買おう、ということだろう。
 
ICBM
大陸間弾道ミサイル。そこまでは成功していない。3段ロケットを発射して、ロケットはフィリピン沖に落ち、ロケット先端は大気圏外へ出て、地球を回っている。しかし、地球に「再突入」するには、凄い摩擦熱(8000m/s)に耐えて、ワシントンなりを正確に刺さないといけない。これが難しく、まだ成功していない。
 
【甘い読み】
金日成が死んで、金正日体制に変わった時に、アメリカはじめ西側諸国の読みが甘かった。「数年で内部抗争も起きて、経済も崩壊して国家が瓦解するだろう」と。しかし、党体制(行政官僚機構)が確立している。
「党内部のタカ派とハト派が対立している」という情報は、北朝鮮が国際世論をけむに巻くために意図的に流していた節もある。長けている。ベトナムのような集団指導体制にはならない。もしなったら、建国の経緯からして、北朝鮮が北朝鮮でなくなる。
それに、儒教社会なので、民衆も血統を重視する。金正恩金日成に似せた髪型や服を着ると、民衆の支持が高まった。手の振り上げ方も、似せている。
このような東アジアに特異な文化を、アメリカの専門家は軽視してきた。北朝鮮の国家・社会を読み間違えた。ようやく最近になって、アラブをはじめとして、それぞれの地域の語学・文化・社会に長じた専門家を育成し始めた。
 
【中国】
六か国協議を北京で開催してきたが、アメリカの思うようにならなかった。中国にとってみれば、北朝鮮は地下資源を中国に回してくれるし、アメリカ、韓国、日本と張り合ってるし、「いい子分」のような存在。中国東北3省に次ぐ第4省のような存在と考えている。
中国は「核を持った北朝鮮」を、受け入れてもいいかな、となってきている。アメリカは、この中国の動きも読み間違った。
中国は、北朝鮮の東北部の港を使いたいので、金を出して開発している。
 
【分断国家の統一】 
核を持たなかったから、リビア、イラクは潰された。北朝鮮が「体制の保証」を求めているのは、北だけでなく、韓国も含めた統一の手段の決め手と考えている。北半分の安全保障で、核を捨てるわけがない。「分断国家の統一」まで含めてはじめて、北朝鮮にとっての「体制の保証」になる。
北朝鮮がこのように考えている、という発想が西側に全くなかったのが、読み間違いの根源。北朝鮮の法律上も、韓国は北朝鮮の一部。中国の人民解放軍の幹部は、分かっている。
 
【韓国】
韓国(5000万人)の選挙でも、北朝鮮(2000万人)と融和して統一しよう、という民族意識があり、それを掲げる党もある。統一したら、イデオロギー対立は忘れて、5000万人の韓国が、2000万人の北朝鮮を染めることができる、と韓国の人は考えている。2000年の世論調査では、南北連邦制になった時の大統領としてふさわしい人物として、金正日が出ている。統一したら、人口が増えるし、中国に流れている資源も使えるし、国家統一の栄光を世界に示せるし。(jizaki:核も韓国の手に入るし、すごく国力が増大するな。) 
儒教文化で、同族で助け合う意識が強い。
 
【ゲバルト】
宮台:日本は行政官僚機構が国を支配していて、天皇はゲバルトを持っていない。中国はいくら近代化しても、ゲバルト(暴力)機構である軍・公安が国を支配している根元的な力である、ということを認識している。暴力の歴史としての「中国史」の伝統。北朝鮮の体制は、これに近い。
 
【ぶりっ子】
北朝鮮は、核を持つまで、世界を情報戦・心理戦で翻弄してだますことに成功してきた。核を持つことは、金日成の遺言であった。
宮台:なんという外交手腕の合理性、ぶりっ子ぶりだろうか。
 
金正恩
就任して1年。この1年で起きた出来事の9割は、正恩であるから起こったこと。核開発は、金日成からの系譜だが。
正恩はアメリカに対して意外とドライ。西側のイデオロギーと豊かさは別だ、と割り切っている。西洋の文物に憧れて尊敬している、という点では、普通のコリアンの若者と変わらない。
 
【ディズニー好き】
取り巻きの女性集団を、金正日の時から作り変えた。youtubeで「北朝鮮 モランボン楽団 初公演」と入力すれば見れる。1h40m。奥さんとポップコーン見ながら見ている。
ミッキーマウスのぬいぐるみが出てくるし、アメリカの映画音楽も入っている。このプロデュースを、正恩自身がやっている。面白いものは面白い。美味しいものは美味しい、という発想。アメリカの文化に違和感がない。
 
【フェイント】
バスケットボールがえらく好き。少年の頃、スイスで友人と8割の時間はバスケで遊んでいた。ロッドマンを呼んでパーティーもした。バスケほどフェイントを活用するスポーツは無い。ミサイルでもフェイント。 
アメリカのメディアを呼んでロケットの取材をさせたりして、アメリカ国民に親和感を持たせるのも上手い。これが政策手法にも反映されているだろう。
 
親日本文化】
日本に対しても、憧れと尊敬の念も、持っているようだ。「日本のものはけしからん」とは思っていない。SEIKOの時計と、資生堂の化粧品が好きで、愛好している。お父さんのお抱えのすし職人が握ってくれたので、お寿司も大好き。
普通のコリアンの若者。お爺さんやお父さんの感性とは全く異なる。ただ、公言はしていない。内部的にまずいから。反日・反米で統率しているから。
 
【米朝関係】
アメリカ大統領に、「いつでも電話かけておいでよ」とも言っている。
(神保:しかし、アメリカは無視しましたね。オバマは、電話で何を言えばいいのか難しいだろうなあ。)
電話して、「無茶なことはやめなさい」と言えばいいんですよ。
北朝鮮の波長に合わせて、きめ細かな対話をするべき。北朝鮮のソフトランディングを図る、専門家がアメリカにいないようだ。
 
【内部対立】 
が、あるとすれば、軍と労働党の不協和音。軍の特権があまりにも強くなりすぎたので、最近は労働党の方に権力を移そう、という動きがある。軍の中にフラストレーションが溜まっている可能性はある。だから、うまくガス抜きをする必要がある。パレードをしたり、昇進させたりして、懐柔する政策が進んでいる。これはうまくいっている。
 
【若さ】
 
30歳で、このような仕事ができるのは、よっぽど優秀。しかし、スイスの大学での成績は良くなかった、と言われている。そういう優秀さではない。
抗日パルチザンを経験した民衆に、青二才と馬鹿にされないで受け入れられるために、お爺さんの風貌をまねている。それが上手くいっている。カリスマの獲得。
決して、狂った人間ではない。核の力学について冷徹で合理的な計算が出来る。狂っている、と評価する日本やアメリカのTVのコメンテーターは大間違い。
 
帝王学
金正日から、子供のころから帝王学を叩きこまれている。子供の中でも特別扱いされていた。
お爺さん、お父さんの時代の偉い人を首にして、入れ換えている。それでもクーデターは起こっていない。権力の意味・動かし方を良く分かっている。
宮台:発想が身軽だ。性格として「死を恐れない、孤独を恐れない人物だ」と言われているから、合理的に戦略を切り替えられる。
 
【サイバー・アタック】
北朝鮮の大学でコンピューター工学を学び、詳しい。中国経由でサイバー攻撃を仕掛けている。たぶん正恩の発想だろう。
 
【日本】
どんなオプションがあるのか。
小泉政権以来の「対朝外交」の経緯には、やむを得ない事情もあったと思う。日米同盟に配慮しながら、六か国協議で北朝鮮の「核、ミサイル、拉致」の3つの問題が「一緒に」解決に向かえばいい、と考えていた。
しかし、核とミサイルは、もう保有してしまった。だから膠着状態になった核とミサイルと、未解決の拉致問題をセットでなんとかしようというのは、難しい。このタイミングで安倍政権が出てきた。拉致問題は、核ミサイルとは切り離して作業した方がいい。
しかし、外務省に田中均なき今、北朝鮮とのパイプは無い。日韓の間でも外交のパイプがなくてみんな嘆いている状態。
しかし、モンゴルと安全保障の協議を始めたことからわかるように、第二期の安倍政権は違う印象を持つ。だから、六か国協議を離れて、拉致問題だけの対話交渉を始めればいい。
武貞は、有識者会議で「過去の関係に拘らない指導者だから、一から対話すればできる」と安倍首相に話をした。
宮台:各国指導者は、正恩が手強い相手だということが分かってきただろう。
神保:大外からのスリーポイントパスとか、ノールックパスとか、してくるかもよ。
 
【今後】
中東(イランやシリア)への核拡散に注目。
アメリカの政策担当者が、「ICBM(大陸間弾道弾)とunification(南北統一)の結びつき」を理解できるかどうか。
 
【核の力学】
アメリカは「新たな核保有国を認めない」と建前では言うことになるが、本音は、事実上は、核保有国として対処することになる。例えばインドとパキスタンの核保有に対しては、「南アジアでの核使用の危険性がとても低い」と見積もったうえで、インドとの関係をアメリカは改善してきている。これは、インドの核を認めているようなもの。持っているけれど使わない相手は、認める。インドに対して「捨てなさい」といいながらも。互いにメンツが潰れないやり方。
北朝鮮は、アメリカに「中東に売らない代わりに経済援助せよ」とも言える。
 
【感想】
jzaki:国家が「主権」を持っていると言っても、結局は暴力を持った方が持たない方を不利な条件で収奪するのが国際経済だから、「全ての国家が核保有したらいい」という提言も、理想論としてはあながち否定できないな、と思った。もちろん暴論だし、核廃絶を目指す方向と逆行するけど。