jizakiの備忘録

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VideoNews「米大統領選のもう一つの見方 」町山、萱野、宮台

【概要】

ネタ的には、アメリカのモルモン教、中絶、世代間闘争、脱税が面白かった。経済の見方としては、主に萱野さんの言う「成長が飽和した先進国でのバブルの必然性」と「成熟社会への移行」が面白かった。

 

【動画】

http://www.youtube.com/watch?v=l9qocykfZt8

(2012年10月06日)ニュース・コメンタリー   ゲスト:町山智浩(コラムニスト・映画評論家) 聞き手:萱野、神保 ・・・を見ながらの、メモ。

 

【大統領選の争点】

第二期目の選挙で苦戦するオバマの困難や、現在のアメリカが抱える課題は、日本のメディアでは注目されていないが、重要な争点がたくさんある。

共和党のロムニー候補は、「禿鷹ファンド」の経営者で、今回の争点は「禿鷹方式」で金持ちから滴り落ちる雫で貧乏人を養う「トリックル・ダウン」で行くのか、オバマの「ニュー・ニューディール」で再分配するのか、という選択。

 

【日本の争点】

日本の自民党と民主党は、政策の争点がない。自民の「上げ潮派」や「維新の会」はロムニーの禿鷹式に近く、福祉の民主や自民党の公共事業派は「オールド・ニューディール」式。

「維新の会」は、弱肉強食的な発言が多いが、ベーシック・インカムも唱えていて、奇妙だ(面白い)。これは、再分配事業の取引費用を効率化したい、という方針で、新自由主義的な政策に親和的。

かつて、ルーズベルトの対抗馬がベーシック・インカムを唱えて票を伸ばしたことがあり、不況期に票を集めるには効果のある公約。

 

モルモン教

 ロムニーの属すモルモン教は、かつてアメリカ政府と戦争している。モルモン教は一夫多妻が目立つが、マノリティーであるので、経済活動に特化してしている人が多く、教育投資が大きい。弁護士、医師なども多い。ラスベガスのオーナーにも多く、自身は決してギャンブルしない。マイノリティーとして経済活動に特化しているのは、ユダヤ教徒に似ている。信徒は収入の10%をモルモン教会に寄付している。戒律が厳しく、自慰が出来ないようにピチピチのパンツを穿いていて、お風呂以外では脱いではいけない。お酒やコーヒーもダメだが、ココアは飲んでいい。だからケント・デリカットは、かつてココアのCMに出たことがある。

 

【中絶の是非、政教分離の歴史】

人工妊娠中絶の是非が、また大統領選の争点になっている。アメリカは政治の次元と道徳の次元がとても近い。近代の政治の立て方としては、アメリカの政治は非常に特異。 ただ、サンデルが指摘した通り、共同体の倫理(道徳・宗教)と政治は深い関わりを持っていて、良く考えると難しい。今のアメリカは、カトリックであるヒスパニック系が増えていて、政治と宗教の距離が近づきつつあるのでは。

モルモン教に対する微かな恐怖は、ユダヤ教やカトリック、共産党に対する恐怖と相同な部分があって、お金が国家の枠を超えて移動・集中するので、その事への抵抗感がある。 

 

【Magic Negro】

オバマが出てきたとき、共和党の人間は「マジック・二グロ」だ、と言った。この言葉はアメリカの黒人映画監督のスパイク・リーが言った言葉で、アメリカ映画では主人公が困った状況になると、黒人が出てきて知恵を授けたり(wise man)、爆弾を爆破したりして状況を打開してくれる、というストーリーが多いのだが、スパイク・リーは、黒人がそのような役回りを演じさせられることを「Magic Negro」と呼んで、黒人をそういう使い方するな、と批判した。SF映画でも、アメリカが危機に陥る時の大統領は黒人である。

良くも悪くも、アメリカは危機に直面するとマイノリティーが大統領として登場することがあって、ケネディーはカトリックであることをカムアウトしたし、今回もモルモン教のロムニーが出てきている。アメリカの文化の深層に、何かそういうメカニズムがあるのかもしれない。

人類学でもよく言われていて、日本でも中国でも危機の時代に「まれびと」をトップに据える、ということはあった。

 

【医療保険】

オバマの不人気は、雇用の回復しきっていないこと、医療保険改革に対する文句、など。成果を上げた政策に対しても、非難されている。

国民皆保険を実現したのに、違憲訴訟が起きている。アメリカ人は、相互扶助の保険原理を理解できない人が多い。映画「SICKO」を見せられても、考えの変わらない人が多い。

 

【世代間闘争】

ティーパーティー」は高度成長期に働き盛りだった高齢者が多く、「話が違うじゃないか!」と怒っていて、人口的にも多いし、投票率も高い。「オキュパイ・ウォールストリート」は高度成長を経験していない若者が多く、「初めから話がおかしい!」と怒っていて、人口的にも少ないし、投票率も低い。どこの先進国も、団塊の世代と若者の対立がある。

 日本でも、「貧しい人間も含めて相互扶助の土台を作ると、その土台ごと沈むのではないか」と懸念する声が「維新の会」などから「年金制度」に関して出ている(破綻が明白な現行の年金制度は廃止しよう、と)。

 

【富者優遇】

アメリカで47%の人間は税金を払っていなくて、貧困者や高齢者以外にも、ロムニーを含めた金持ちも税金払っていない者が多い。ロムニーはケイマン諸島とスイス銀行に口座を持っている。ロムニーは、中国に労働者2万人の工場を建てていて、新自由主義者がよく言うレトリックである「トリックル・ダウン(富者のおこぼれが貧者に滴り落ちる)」は、もし言いたいならばアメリカではなく中国で生じていることであえる。

 

【経済の見方】

  • オバマは公共投資や福祉政策で「需要」を喚起して経済再生を目指す方向で、ロムニーは「規制緩和」と「金融緩和」で巨額の金を市場に流し込んだら経済が活性化するだろう、という「サプライサイド(供給側)」の考え方。
  • しかし、かつての「規制緩和」と「金融緩和」で生じたのは、お金が生産に向かうのではなく、住宅バブルで「サブプライムローン」、金融バブルがはじけて「リーマンショック」であった。(*このあたり、アベノミクスも同じ運命をたどるだろう。)
  • 世界経済の現状として、「供給過剰」である。新興国が車や家電を作れるようになり、先進国ではIT化で生産効率上がり、人口も減っている。こんな状況でサプライサイドの考え方で市場にお金を流せば、実体経済の生産に向かうのではなく、金融市場に流れる。
  • だぶついたお金は、不動産や株だけでなく、コモディティー市場に流れ、原油や穀物が高騰している。特に原油高は、もろに製品の原材料代を押し上げるが、供給過剰で新興国との価格競争があって価格転嫁できない。そこで、賃金を減らして原油高を吸収しているのが、先進国の状況である。
  • このような構造がある中で、サプライサイドに立って「金融緩和」を続けても、賃下げと「デフレ」を悪化させるだけである。
  • グリーンニューディール」は、効果は薄い。既存のものがバージョンアップする、アナログテレビがデジタルテレビになる程度。 自動車や洗濯機の登場のような、イノベーションは生じない。
  • 原油が安いのは、アメリカ型経済の根本であったが、70年代の石油ショックで、産油国がある程度コントロールするようになった。今は、金融市場に流れ込んだ余剰金が原油高をもたらしている。 

 

 【世界史の曲がり角】

今回の大統領選に日本の人が興味を持たないのは、アメリカ経済の問題は、すでに日本がバブルとその後遺症で経験しているから。日本経済の先行きは、低成長とか定常社会とかでも生ぬるい状態であり、縮小経済の中でどのような策を出すか、が重要。

 

おしまい