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VideoNews「TPPは「社会的共通資本」を破壊する」宇野×宮台×神保

【概要】

仙人然とした風貌の宇沢弘文大先生を前に、宮台さんが緊張してるw。 話の流れがやや散漫とした感じがあるが、宇沢先生の「社会的共通資本」への思いが滲み出している。

 

【動画】

(2011年02月26日)マル激トーク・オン・ディマンド 第515回 自由貿易を考えるシリーズ2 ゲスト:宇沢弘文氏(東京大学名誉教授) 聞き手:宮台、神保 (300yen)を見て、備忘録。

 

【宮台の転向理由】 

宮台ははじめ、「TPPは構わないんじゃないか」と思っていたが、見解を変えた。当初TPP参加を支持した理由は、日本の農政が「価格支持」政策に固執して、先進各国で一般的な「所得支持」政策に移行していないがゆえに、市場における動機(インセンティブ)を利用していない。そのため現在、生産合理性を追及しないように動機付けていて、コメの土地生産性が低くなっている。これを克服するためにTPPがきっかけになるのではないか、と考えた。

 

しかし、韓国がIMF受け入れから米国とのFTAで快進撃している、というのは誤解で、韓国では「中山間地を遺棄」して工業生産に特化し(売り上げの25%がサムスングループ)している、痛みを伴ったいびつな経済成長。

 

アメリカの「牛肉・オレンジ」を日本に売りつける、「大規模店舗の規制緩和」してトイザラス進出、「日米構造障壁協議」、の流れの先にある、TPP。そこでアメリカが使う理屈は、日本の農政は「都市の勤勉な2次・3次労働者である消費者」から「勤労意欲のない非生産的な農家や流通・小売り業者へ」へ「財」を移転しているのであって、消費者の利益のためには大規模店舗緩和や関税障壁撤廃が必要、というもの。日本の政策的な弱点に付け込んで、アメリカの農業・流通産業のロビイストが売り込んでいる。

 

宇沢弘文

宇沢弘文は、禿げで白髭という風貌が仙人、オーラが違う。「TPPを考える国民会議」代表。 数学畑出身の経済学者で、ノーベル賞に最も近いと言われた。『自動車の社会的費用』、『社会的共通資本』という本を書き、広く読まれた。TPP参加に対して「悲しい、我慢できないほどの激しい怒りを感じる」と述べる。

 

【強者(アメリカ)の論理、TPP】

アメリカはベトナムで、広島・長崎の原爆に匹敵する「枯葉剤」散布を行った。ベトちゃんドクちゃんのような子は、今でも生まれている。そのアメリカとベトナムが同時期にTPP参加を表明したが、大国と小国が同じルールに従うとき、大国の都合の良いルールで小国がみじめになるだけ。

「自由貿易」とは、支配的な帝国にとって好都合なルールにすぎない。

 

【アメリカの社会思想】

アメリカは先住民(インディアン)とその文化・社会を殺し、氷河期以来たまってきた中西部の地下水を汲み上げて穀物生産して、枯渇させた。二酸化炭素を最も多く排出している社会もアメリカである。

 

【日本のエージェント】

アメリカだけの陰謀ではなく、日本国内にもTPPから利益を得ようとする集団がある。

アメリカの読みとしては、民主党の支持母体である連合は、自動車・家電メーカーの労組なので、TPP賛成するだろう。 

 

【開国】

  • 第一の開国=安政の開国・・・Pax Britanicaの時代にあって、アメリカと「日米修好通商条約」を締結。これは国家主権を無化する不平等条約で、①アメリカ人が日本人に危害を加えた場合、アメリカの領事がアメリカの方で処分する(治外法権)、②日本の関税をアメリカが決める(関税自主権の剥奪)、③在日米人や企業に「最恵国待遇」を与える、というもの。
  • 第二の開国=GHQによる占領・・・アメリカに忠誠を誓い、アメリカの経済と軍事(沖縄の米軍基地に核兵器)に協力する政治家と国家官僚を育てた。東条などA級戦犯を絞首刑の翌日、後の首相となる岸信介、昭和の極悪人と言われる児玉誉士夫を保釈。岸は日本をアメリカの植民地化するために狂奔し、安保締結。
  • 第三の開国=TPP・・・アメリカに都合の悪い関税・非関税障壁の撤廃。シカゴ大学新古典派フリードマン式の市場原理主義。外部性無視する、非人間的、反社会的な前提。 

 

新古典派経済学

新古典派の経済学者であるエントフォーヘンは、ベトナム戦争時代にベトコン一人を殺すのにかかる費用=「kill ratio」を計算し、それを下げる政策を立てた。このことが明らかになると、世界から強く非難された。その後、エントフォーヘンはサッチャーに見出されて、できるだけ安く老人を死なせる=「death ratio」を計算した。サッチャーは、個人しかない、家族さえない、と演説し、National health serviceを崩壊させた。これが新古典派経済学の考える「効率」である。

また、フリードマンの弟子の学者で、家に帰ると奥さんが自殺していた。その学者は、これから自分は「自殺の経済学」を考える、と言った。それは、奥さんが「彼と一緒にいる苦痛」と「自殺による苦痛」を比較衡量して、一緒にいる苦痛が上回ったから自殺の方が経済合理的だ、という結論を出す「経済学」であった。

この学者はその後、若者が大学に行くかどうかを、生涯賃金で判断する「教育の経済学」や、殺しの楽しみと処刑の苦しみを比較衡量する「犯罪の経済学」を考えている。金融工学の発想も、基本的にこれだ。

 

【フランスの大学卒業資格試験=バカロレアの問題】

  • 「弱者保護と環境保護が矛盾する場合」について判断して見解を述べよ。・・・映画『ダーウィンの悪夢』のように、弱者の味方になるはずの市場(ナイル・パーチの加工工場)が環境=コモンズを破壊するケース。
  • 「正義と不正義が単なる約束事に過ぎないのかどうか」判断して見解を述べよ。・・・正義には内容があるのか、あるいは正義には帰結があるのか。
  • 帰結主義は効用主義の別名。動物倫理学の効用主義者シンガーは、幸福の総量が増加するなら一人(一匹)を殺してもいい、という立場。

 

【コモンズとしての農業・農村】

農業が非効率で既得権になっている、という批判について。コモンズ(社会的共通資本)としての農村。単位は農家ではない。従来の自民党的農政か、TPPか、という二択はおかしい。

 

顔の見える関係で売り買いするヨーロッパのスローフードは、マーケティングの一環であるアメリカのロハスに反対した。イタリアのマクドナルドが近隣の農産物でハンバーガーを作ったが、それは本社の指示によるロハスであって、顔の繋がったスローフードではない。