jizakiの備忘録

動画や本などのメモ、etc

VideoNews「TPPに見る「自由貿易の罠」」中野剛志×宮台×神保

【概要】

TPP反対派の「急先鋒」、中野剛志を迎えての対論。経団連会長を指して「お前が世界の孤児なんじゃないの?」と舌鋒鋭い。「賃金」下がって「株主配当」上がるグローバル経済の宿命の中、いかに社会を守るか。

  

【動画】

http://www.videonews.com/charged/on-demand/511520/001660.php

(2011年02月05日)マル激トーク・オン・ディマンド 第512回 自由貿易を考えるシリーズ 

ゲスト:中野剛志氏(京都大学大学院助教)聞き手:神保×宮台 を見てメモ。

また、このブログの2013.2.26.日記で

 ニコ生「だからTPP参加はダメなんだ!」中野剛志×津田大介 についても書いてます。

 

【TPP賛成→反対】

宮台は当初「TPPやむなし」と考えていたが、韓国のFTAのデータを見ておかしいな、と思うようになった。外需依存度は日本で17%、韓国で50%。韓国のGDPの25%がサムスン関連。韓国の中山間地は「限界集落」化を超えて人がいなくなっている。また、2010年末にマスコミが一気にTPP賛成に転じたのが作為的に感じた。

 

【TPPの条件】 

  • 二国間のFTAと違って、多国間のTPPでは参加に先立って条件闘争が出来ない。
  • 日本はアメリカに工業製品を売るメリットがない。アメリカの自動車・家電の関税は5%程度で、アメリカの国内生産も多い。こんなもの、為替の変動に対して誤差の範囲。韓国の製品が強いのはFTAのお蔭ではなく、IMF以降のウォン安のおかげ。

 

【日本の農政】 

  • 「農業」政党ならぬ「農村」政党たる自民党のほころびが、いまも尾を引いている。
  • コメの「価格支持政策」は、合理化して生産性上げると価格が下がるので合理化するな、というインセンティブが働く。
  • jizakiの私見では、日本のコメの生産性が低いとは思えないんだけどな。どの田んぼも丁寧に管理されてるし。確かに一筆あたりの田んぼの面積は小さいと思うけど。
  • 経団連や経産省からすれば、日本の農政の非生産性は攻撃したくなる。半周遅れの農業保護論と、自由貿易化した後の農業政策論がごっちゃになってる。
  • 日本の農産品はコメ以外は関税が低すぎて壊滅していて、むしろ関税を上げろ、と言ってもいいくらい。
  • 「農業」は「工業」に比べて「生産性」が上がりにくいので、賃金は上がらないもの、と観念すべし。今、デフレの中で生産性を上げたら、タクシーの規制緩和のようにデフレ(価格破壊)が進行して農業がつぶれる。
  • 日本で「食の安全」への意識が高まって原産地表示やトレーサビリティーしているが、TPPではそれを非関税障壁だと言われれば廃止しなければいけなくなるかもしれない。同様に、外資が農地を買いやすくなるかもしれない。
  • 日本の高付加価値の果実を輸出して儲けよう、という意見もあるが、中国のバブル成金が弾けたり為替リスクがる中で、果実に投資するのは危険。不況になると高付加価値のぜいたく品は売れなくなる。

 

【アメリカの農政】

  • 欧米の農家の収入の半分以上は政府からの直接支払。農業は長期的に所得支持政策をすると技術革新おこしやすい。
  • アメリカの農業と政府の癒着はすごく強い。アメリカの農産品の関税は5.5%だが、農家補助金が計算に入っていない。
  • 2007年時点で、アメリカので収入100万$以上の大規模農家は農家数の2.6%で、販売額は6割。零細農家は農家数78%で、販売額はたったの4%。1935年に681万戸あった農家は、いま280万戸しかない。大草原の小さな家は、アメリカ自身の新自由主義によって壊滅的に。

 

【グローバル経済】

  • 先進国では90年代から2000年代にかけて、好況時にもグローバル化が「労働分配率」(売り上げから賃金に出す割合)が下がっている。特に、ドイツや日本のような、輸出に強いと言われる国で顕著。冷戦終了によって新興国の経済が成長し、IT化もあって低賃金で生産率の高い経済が伸びてきた。

  • 経済のグローバル化で「平均利潤率均衡化」して先進国の賃金が新興国に引っ張られて下がり、資本の流動性が高まって株価を維持するために「株主配当」は上がる。 新興国の経済活動で原油価格も上がる。

 

【日本経済】

  • 現在の日本のGDPに占める輸出の割合はたったの17%。日本が貿易立国だ、というのは虚像で、豊かな内需がある。戦後復興の象徴的なフラッグシップとしての工業製品。 
  • 日本の経済界で発言権が強いのは自動車と鉄鋼。前経団連会長の御手洗が社長をしているCANNNONも8割が海外。
  • 日本の企業の売り上げは、「株主配当」と「内部留保」に行って賃金に行ってない。企業は、日本の労働者の賃金が下がると製品を安く売れるので儲かる。

 

【アメリカ経済】

  • オバマの政策は非常に内向きで、失業率の上昇で支持率が下がっているので、国内雇用を増やすことしか考えていない。
  • 中国が為替を固定していることで米中の摩擦が生じているが、中国がアメリカの航空機200機(3.7兆円)を買うことで手打ちにしている。
  • アメリカは近年の好況期でも労働分配率が下がっている。日本と同様にデフレになるはずだったが、アメリカの中産階級はローン(借金)を組んで家を買ったり耐久消費財を買ったりした。そのサブプライムローンがリーマンショックで弾けたので、アメリカはこれからデフレに入るはずだ。
  • オバマ改革は貧富の格差を是正するはずが、出来なかった。そこで、オバマ=アメリカはプレデター(捕食者)となって、金融資産の巨大な日本に狙いをつけるに決まってる。 

 

【経産省とTPP】

役人がTPPのアクセルを踏んだ理由(憶測)

  • 「馬鹿げた理由」:APECを横浜で開催(主催国)するが、何か格好を付けなければいけない。横浜と言えば開国、しかし関税も非関税障壁も、殆ど取っ払ってるしなあ・・・TPPが、あるじゃないか! そんな馬鹿な、と思うかもしれないが、この程度の頭の役人もいる。
  • 「少しだけ真面目な理由」:尖閣で中国と揉めている。北方領土も。日米同盟で軍事的に守ってもらう見返りにTPPを貢納。しかし、貿易と軍事は別の次元なので、TPPの見返りとして尖閣を米軍が守るわけない。 

 

【自由貿易と保護貿易の誤解】

  • 2005年の小泉選挙の結果、市場原理主義が進んだ。 
  • 「既得権益」を打破したい、と思って投票するが、「市場原理主義」は既得権者に益々フリーハンドを与え、得をするのは既得権者。
  • 大衆にとって、「保護主義」という言葉には、農業などの既得権の匂いがする。「自由貿易」には、既得権を打破するセンチメントがあって、衆愚の人気が出る。
  • それでいて、アメリカの農業ロビーなど既得権を攻撃しないのは、奇妙。
  • このあたりは、「日本の戦後右翼の問題」とも重なっている。親米・対米追従の政権である自民党を支持する右翼は、ナショナリズムとしておかしい。
  •  戦後右翼(児玉誉士夫など)の枠組み自体が、アメリカに与えられた「逆コース」(cf.wikipedia)。

 

【経済学と経済】

  • 「経済学者」が知っているのは「経済学」であって「経済」じゃない。条文を読めばTPPは自由貿易の条件を満たしていない。
  • リカードの言うような比較優位を生かした自由貿易は、関係国が完全雇用の前提のもと。それに、労働の国内移動は自由で国際移動はない、という前提のもと。自由経済を唱道する経済学者が、TPPに反対しないのはおかしい。 
  • リカードの比較優位は、取引費用を無視している。不作の時に農作物を売ってくれない、という取引費用は、調子の良い時には見えない、安全保障上の問題。

 

【ヨーロッパ:保護貿易=市場介入】

  • ヨーロッパとアメリカで、「国家」と「自由」に対する考え方が180度ちがう。
  • ヨーロッパの中では、「国家」については皆あまり懐疑しない。「自由(市場)」をどの程度懐疑するかで対立する。これで、ヨーロッパは「自由主義」か「保守主義」かに分かれる。
  • ヨーロッパでは、共同体は市場にも国家にも、強く依存しすぎてはいけない、と考えている。
  • 比較優位」論によるの自由貿易の推進には「民主主義」の出番がなく、社会を破壊する。

 

【アメリカ:自由貿易=自由市場】

  • アメリカは、「国家(連邦政府)」は懐疑して「自由(市場)」は懐疑しない。市場原理主義。自由貿易に連邦政府が介入するのはけしからん、と考えている。

 

【日本:アメリカのprey】

  • 日本では、国家への懐疑がない上に、市場に対する懐疑もない。共同体が市場に依存して空洞化した。
  • サルコジエマニュエル・トッドの思想を受けて「民主主義と市場原理主義は両立しない」と言った同じダボス会議で、官首相は「第三の開国!」とか「least unhappiness!」とか言ったので、みんな頭抱えてしまった。

 

anti-globalizationから、anti-growthへ。