jizakiの備忘録

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読書メモ『「生きづらさ」について』雨宮処凛、萱野稔人

【新書】

『「生きづらさ」について -貧困、アイデンティティ、ナショナリズム-』/雨宮処凛、萱野稔人/光文社新書/2008年/760+税円

 

【著者】

雨宮処凛:中学でいじめを受けて、ビジュアル系バンドの追っかけにはまる。上京してフリーターになり、社会の中で尊厳や承認を得られず、リストカットもする。右翼団体に入り、ミニスカートで愛国をアジテーションする。社会に問題があると気づき、今では若者の貧困の問題に取り組んでいる。

萱野稔人:国家の基底に、「暴力の正統性」を独占して「法(ルール)」を貫徹しようとする運動を見る哲学者。私たちが国家から自由になれないことを念頭に、ナショナリズムに関して積極的に発言している。

 

【産業空洞化】

先進国の産業構造は、「工場」が人件費の安い海外へ移転し、国内にあるのは、マネジメント、企画、営業、研究などの「本部」機能で、社員には「コミュニケーション能力」が要求される。

国内工場は、「外国人労働者」か「派遣労働者」で安く抑えられる。賃金の「底辺への競争」。安いパイを外国人労働者と奪い合うことになり、敵愾心を抱いたり、日本人であることに自分の尊厳の拠り所を求めることになる。

 

【コミュニケーション重視社会】

芸人ブーム キャラ KY(空気読みすぎ) いじめ メンタルヘルス リストカット 

 

【俗流若者論】

「今時の若者は、・・・」という「俗流若者論」は、年長世代の慰み物で、大きな「若者論市場」がある。若い書き手に、年長世代の欲望に迎合するような書き方をする者がいるものだから、ややこしい。

80年代バブルの時に若者だった世代には、共同的なものを否定して脱アイデンティティーしていかなくてはならない、という発想が強い。ニューアカブームもその流れで消費されていた。

 

【貧困層に借金させる政策】

国内に貧困層を生み出すのは、政府にしても企業にしても得策ではないかというと、そうでもない。それは、貧困層に「借金」するように仕向けること。非正規雇用の広がりとサラ金の儲けが、いかに関連しているか。日本の派遣業者「フルキャスト」の「登録カード」は、そのまま「サラ金」のカードになっている。

バブル崩壊後、不良債権が膨らんだ銀行は信用度が低い中小企業や貧困層には直接融資せず、利子の高い商工ローンや消費者金融に間接的融資している。

アメリカのサブプライムローンも、支払い能力の無いような人にローンを組ませていた。そうして貧困層に借金させて、「内需を維持」してきたのが、先進国の現状。

 

ルサンチマン

 赤木智弘丸山真男をひっぱたきたい 31歳フリーター。希望は、戦争」(2007.1.『論座』)に現れたルサンチマン。富裕階級には向かわず、自分と同じような家柄や能力の人間が正規採用されていることに怨念が向く。

95年の「郵政民営化」に賛成した選挙民の「公務員憎し」というルサンチマンと同じで、結果的に平民は得をしなかった。なぜアメリカが自分のところは民営化していないのに日本に郵政民営化を求めるのか、民営化で得をするのは誰か、民営化で社会が失うのは何か、という意識がない。

特定の範囲の人間へと狭められた「平等意識(なんであいつらだけ)」によって足を引っ張り合わされていて、自分たちと「富裕層」との格差に目が行かない。自分達で自分達の首を締めるようなことをしている。

 

素人の乱

論座』2007.4.で、赤木論文に対する応答が特集されたが、どれも「的外れ」か「ただの正論」で、赤木に響くものではなかった。しかし、同じ号に「素人の乱」の紹介があり、赤木によれば、「希望は戦争」と言っている自分に対する最大の「批判」として脅威を感じた、ということだ。

素人の乱」というのは、いわゆるまともな仕事についていなかったりして社会的承認を得られないような若者が集まってカフェやリサイクル・ショップ、ラジオをやったりして「自分たちの存在空間」を作り出している。「普通の人生」を降りた人間たちが、「新しライフ・スタイル」を創造している。

しかし、赤木は「素人の乱」が近所にあっても、入っていけないだろう、という。自分は、差別やバッシングを受けないならコンビニの仕事でもいいし、年収100万円なんかで親に頼らなくはならない収入ではなく、「普通」に生活して結婚できるような社会を望んでいる、という。 

 

ナショナリズム

ネトウヨ

「格差」や「貧困」の問題を「ナショナリズム」の観点から問題にするのは、「最初の一歩」としてありだと思う(萱野と雨宮の意見)。 しかし当然、「プレカリアート」の問題は日本人だけの問題ではないので、世界的な労働問題として考える必要がある。

 

フリーター労組

「派遣労働」などで尊厳や承認を得られない人が、一方では「右翼」に行き、「愛国」で尊厳を回復し承認を得、他方では、「フリーター労働組合」に行って承認と尊厳を回復する、ということが起こっている。

フリーター労組には、「ニート」や「引きこもり」が個人の「心の問題」に矮小化され、個人責任にされているが、これは「労働問題」である、という認識がある。

熊本の「KYメーデー」は、「空気読めない」ではなく、「くまもと よわいもの」の意味。「強い者(政府や経団連)」に使い捨て、見捨てられたりすることに黙ってないで声を上げよう、と。

実行委員は殆ど女子で、「ニート」や「メンヘラー」、「ニート」がほとんど。これまで精神医学の分析の対象にされていたが、社会的な回路を持つことで元気になっていった。デモでは「バカにすんな―! メンヘラーだって生きてるぞ」と原始的な叫びを上げる。マクドナルドに「時給2000円にしろ!」と叫びながら乱入、線路の上に寝転がったり。YouTubeに上がってるらしい。あった。

http://www.youtube.com/watch?v=zw75bckti0Q

 

【jizakiの考え】

① 国内の労働者で労働時間と賃金をシェアし、貧しさも分かち合う。職場を通じて、これから引退していく世代から、若年層が各種の技能を受け継ぐ。

② 2030年に破綻する年金は、賦課方式から積立方式に変える。今ある借金は、数十年かけて返す。

* 私自身は、経済成長しなくていい(低成長~反成長)と考えているので、これだけでもいい。で、原発は全て廃炉する。しかし、もし経済成長したいなら、次の策。

③ 移民の大量受け入れと、多民族・多文化融和プログラムの実施。オーストラリアの成長と活気は、アジアから若くて優秀で熱心な移民を多く受け入れたから。人口が増えるとGDP,税収が増える。

 

おしまい