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VideoNews「日本の漁業は2つの危機を乗り越えられるか」勝川×萱野×神保

【概要】

「 日本の魚は大丈夫なのか」二つの意味で。①福島原発による海洋汚染。②日本漁業の構造的問題(日本の農業が抱える問題と相同)。

 

【動画】

(2011年09月17日配信)VideoNews マル激トーク・オン・ディマンド 第544回

「日本の漁業は2つの危機を乗り越えられるか」
ゲスト:勝川俊雄氏(三重大学生物資源学部准教授) 聞き手:神保、萱野
 
*** 放射能問題 ***
【魚の放射線】
東北の魚で、放射線が観測されている(350Bq/kg)。60年代の核実験の時代(1.2Bq/kg)よりはるかに高い値。 国の暫定基準(500Bq/kg)よりは低い値。グリーンピースが測定した値では、暫定値より高いものもあった。これはもちろん原発近辺で調べたもので、出荷されていない。
海洋汚染を調べるなら、海藻を調べるべき。放射能を良く溜めるし、移動しない。 
 
【海流】
海流で流され、生態ピラミッドの下に吸収される。3.11後、5.1に福島沖、宮城沖に。5.31には、銚子沖、三陸沖に。
銚子沖は黒潮と親潮のぶつかるところで、銚子以南には放射性の海水は来ない。日本周辺の海すべてが汚染されたわけでない。銚子沖から太平洋へ遠く離れていく吹き出し口になっている。
 1万5000テラBqが海水に放出、と推定。大量だが、太平洋に出たものは、すぐに検出限界以下になる。
 
【生物濃縮】
ただし、東北沖に滞留した海水から生態ピラミッドに蓄積されたものは、少し時間かかる。チェルノブイリ後には、スズキやマダラで半年から一年で捕食魚でピークになった。
マグロなどの回遊魚は、移動するので生物濃縮は気にしなくていい。水銀などは、栄養段階を超えて全て蓄積するが、放射能は体から出ていく部分も多い(生物学的半減期50日)ので、生物濃縮はそれほど累積的ではない。チェルノブイリの時も、3年で検出されなくなった。 
 
【淡水魚】 
海水魚は海水を沢山飲んで多量に尿を出すので、半減期短い。淡水魚は、水飲まずに尿も少ないので、放射能をため込みやすい。 特に、湖は閉鎖的なので、希釈されない。陸に降った放射能は、雨で流される。セシウムは泥などの細かい粒子の表面に吸着しやすく、その場合半減期30年コース。河口の泥に→二枚貝。淡水魚は、キノコと同じくホットスポットが生じやすい。
 
【安全基準】
2011年9月段階で、
事故を受けて作られた<国の暫定基準(500Bq/kg)>:店で売っている魚は全てok
公衆被ばく限度を元に計算した<ICRP基準(50Bq/kg)>:福島、茨城以外の魚はok
ヨーロッパの緑の党が設立した<ECRR基準(4Bq/kg)>:福島、茨城、千葉以外の魚はok
 低線量内部被爆の影響は、良く分かってない。
ICRPの採用するのはLNTモデル=Linear no-threshold model=直線閾値無しモデル。
 
*** 漁業問題 ***
【漁業手段の復興】
水産庁からの、漁業者の保障(漁船の再建)は進んでいる。国交省からの、土木工事(港湾整備)も進んでいる。経済産業省からの、加工・流通業 の手当てが全くない(今まで、補助金の経路がなかったから)。
一次産業(農業・漁業などの生産部門)は予算を落とす経路が確立している。加工・流通は補助金などの予算を落とす経路が確立していない。
 
【グランド・ビジョンのなさ】
生産業としての漁業全体のビジョン(政策)が、元々ない。
日本の1次産業は票田であって産業ではなかった。
農協政策あって農業政策なし、票や献金の集配。同様に、
漁協政策あって漁業政策なし、票や献金の集配。
 
【漁協:古い体質】
漁業権は、日本では漁師ではなく漁協にある。組合から排除されると、専有的に魚取れない。 農協に属さずに農業する人はいるが、漁業ではありえない。農業よりも組合の縛りが強い。 しかし、漁協と漁師が解離してきている。漁協のための漁協。
日本の漁業は、外圧でしか変われてこなかった。内部の関係者が、問題解決型の提案をしてこなかった。しかも、外の人が、内実を知らない。「漁師さんは大変だけど頑張ってるなあ」のような認識で、原発と同じ認識構造。
 
【乱獲スパイラル】
漁協ごとに地域の漁業権を持っていて、 捕獲・保護方針は漁協ごとに考える。60年代の高度成長期には、魚を取れば取っただけ売れたので、今の60代以上の人は美味しい思いをしている。高度成長期以降、乱獲傾向にあり、水産資源が枯渇している。
 
【遅れた近代化、儲からない体質】
小さな魚でも取るようになり、価格低下し、所得低下し、補助金頼りになる。
農業と同じく、出荷すれば終わり。受身的に「せり」をされるだけ。漁師が加工・流通・販売を知らない。最終販売の小売りが値段を決める。高付加価値化して、売り手が値段を付けるようにならないと。
 
【高齢化】
儲からないので後継者がつかず、高齢化する。若い人が入らないので、変革の熱が起こりにくい。
 
【漁業も成長から成熟へ】
「公海自由の原則時代」:他国の沿岸ぎりぎりまで行って、取りつくす、という国際的な焼畑漁業をしていた。
経済が成長し、漁船が大きくなり、まだ水産資源が豊富だった高度成長期には、資源の限界を考えなくてよかった。
「200海里時代」:自国の沿岸で、いかに資源保護と収益を両立させるか。
規模が小さくて民度の高い、ノルウェーとニュージーランドが、インセンティブを量から質へ転換することに成功した。
今でも「焼畑漁業」を、限られた沿海でやっているのが、日本。
今の日本の漁業は出鱈目。潜在力100ある価値の1~3しか出せてない。しかし、持続的にやれば伸びしろが大きい。
 
【他の先進国】
誤った認識は、先進国では1次産業衰退する、というもの。食料輸出国は、生産性の高い先進国だけ。漁業がこんなに衰退しているのは、先進国では日本くらい。
ノルウェーとニュージーランドは漁業先進国で、財政破綻して、80年代に個別漁獲高制限を入れた。漁獲を制限し、取った魚を高く売る。個々の漁業者に何トンという枠があると、大きいのを取る。
はじめ漁業関係者は反対したが、教育によって理解を得る必要がある。丁寧に話せば通じる。保護団体の運動も強かった。結果成功した。
 
【教育】
漁師は、かつての大漁信仰から抜け切れない。博打気分。
自然の生産力は限られているので、漁業者のインセンティブが「早獲り」ではなく「品質」に向かうようになる。
この政策提言を、漁師も国も、なかなか理解しないが、教育が大事。現場は、今のままでいいとは思わないが、どうしたらいいのか分からない。教えられると、進む。
 
【消費高と漁獲高】
日本では、取れてる魚と買ってる魚が違う。
世帯が買ってる魚・・1マグロ、2サケ、3ウナギ、4エビ、5ブリ
日本で取れてる魚・・1サバ、2イワシ、3カツオ、4ホタテ、5マグロ・サンマ
サバを食べればいいのか、と言うと、取れてるサバのほとんどが、エサにしかならないようなサイズ。スーパーで売られてるサバは、ノルウェー産。
 
【規制の価値】 
国の規制と管理によって価値が出る、ということがある。小笠原の自然遺産指定や、パリの街並みなど。規制は、場合によって分けるべき。
資源の持続性は、国の仕事。生産性の向上は、市場(生産者)の仕事。
日本は公権力が弱く、私権(土地など)が強い。公私の線引きが理解できえいない。権力が発動しないと公共性(資源保護)が維持できない、という意識が薄い。そうこうするうちに、漁協が透明性のない不透明な権力になった。
グランドデザインと役割が明確になって、限定的な権限と責任が明確になれば、うまく回るのだが。
 
【水産物貿易】
自国の供給量が下がると、輸出しなくなるのが、これまでの実績。
「日本は2次・3次産業に特化して、1次産品は買えばいい」という経済学者がほとんどだが、現状認識さえできてない。
 日本の消費者は、購買力が強いので、資源の持続性を意識してほしい。
買い負け・・・世界の食糧高騰しているので、買えなくなっているのが実態。
価格が高騰して、国内でなんとかしくちゃいけない、となって変革するのかもしれない。痛い思いをしても、何をしない、のかもしれない。原発を見れば。
 
震災を貴貨として、社会の構造が改革できればよいのだが。 
 
と、いう内容だったのさ。