畑で捕まえたネズミの調査メモ
閲覧注意:ネズミの死体の写真あり
【捕まえたネズミ】
畑でトラクターに切られたのはハタネズミだろう。
頭胴長90mm。尾長30mm。尾率=33%。鼻先が丸く、耳は毛に半分隠れる程度。
背は灰褐色、腹は灰白色。
背面の様子↓
腹面の様子↓
後の足の平の球が5つ↓
苗床で鳥もちに掛かったのはアカネズミかな?
頭胴長110mm。尾長90mm。尾率=82%。鼻先が尖り、耳は折ると目に届く。
背は赤褐色、腹は白色。
顎の下まで白い↓
【種数】
全哺乳類4300種
齧歯目(ネズミ目)1788種
ネズミ亜目1223種=齧歯目の68%、全哺乳類の4分の1
ネズミ科1155種=哺乳類で最大の科。東南アジア起源。
世界中のあらゆる環境に適応して繁栄している。
【個体数】
繁殖力が強く、個体数も驚くべき密度に達することもある。レミング類とハタネズミ類は間隔をおいてしばしば大発生outbreakする。
【棲み分け】
同所的に近縁種が分布することが多く、生息環境や食性を違えて競争を回避し、共存している。
【本州のネズミ】
- ネズミ亜科(アカネズミ、ヒメネズミ、カヤネズミ)・・・尾率は100%近く。鼻先がやや尖り、耳も大きい。3つある臼歯も臼の形をして凹凸がある。
- ネズミ亜科-家ネズミ(ハツカネズミ、クマネズミ、ドブネズミ)・・・人の移動に伴い世界的に分布。ディズニーの連中以外は、衛生害獣として人に嫌われている。)
- ハタネズミ亜科(ハタネズミ、スミスネズミ、ヤチネズミ)尾率は50%近く。鼻先が丸く、耳も毛に隠れるくらい。臼歯は三角形で平たく、凹凸がない。
【アカネズミ属】Apodemus
Apo(離れた)+demus(家から)・・・森に住む
腹側は口元まで白いので、口周りを白く塗ったピエロのような印象。
アカネズミとヒメネズミの活動時間やエサの種類はほとんど同じだが、同所的に共存している。
中身の詰まったどんぐりを吟味して落ち葉の下や巣穴に貯食し、ゾウムシの幼虫などの昆虫も食べるので、樹木の管理人とも言われる。
【アカネズミ】Apodemus specious
specious(美しい)、日本固有種
<形態>
頭胴長90-130mm。尾長70-115mm。尾率100%以下。体重30-60g。
背中の赤と腹の白の対比が美しい。背側は緋色~茶褐色。腹側は白色。
目の大きさは特筆に値する。良く瞼が閉じられるものだと感心するくらい突出している。
アカネズミの幼体とヒメネズミを区別するには、頭骨の咬板を見ないといけない。
<生態>
体重はヒメネズミの4倍重く、飢餓に耐性がある。エサが点在する環境で有利。きわめて広域で平面的な移動・採餌行動。巣穴を掘るのは得意だが、ほとんど地上で生活し、樹上への依存は低い。
二次林を中心とした森林と林縁部。農地や川岸の草地にも出現。
食物は種子、ベリー、昆虫類。秋から春にかけて葉緑素を含まない柔らかい植物の根茎部、実生をよく利用する。
<繁殖>
本州では春と秋に繁殖。1産1-7子。一夫多妻または乱婚的。繁殖期はメス同士の行動圏は排他的で他の個体の侵入を許さないが、オス同士の行動圏は重複し、1個体のオスの行動圏に複数のメスの行動圏が含まれる。
【ヒメネズミ】Apodemus argenteus
argenteus(銀白色の)
<形態>
頭胴長70-90mm。尾長90-110mm。体重12-24g。
背側は黒褐色で、腹部は白色。
後肢はがに股で、指も大きく広がり、幹の表面をしっかりつかめる。
尾は巻きつけるのではなく、バランスを取るために振り回して使う。
頭胴長に対する尾の長さ(尾率=110%)も、日本産ネズミで最大。
<生態>
体重はアカネズミの4分の1で、エサの安定供給が死活問題。動物食を好む。
樹上(10mまで普通)を含めた移動・採餌行動。
安定した極相林を選んで住む。亜高山帯に特に多い。
<繁殖>
本州では春と秋に繁殖。1産2-5子。一夫一妻的で、野外の小型げっ歯類にしては稀有な雄親による子の保育(パターナル・ケア)が行われる。繁殖期には雌雄の行動圏は1個体ずつ重なり合ってペアになっている。良い餌場をペアで防衛している。
【カヤネズミ】Micromys minutus
<形態>
頭胴長6-7cm、尾長7-8cm。体重7-8g。世界最小のネズミ。
背部は橙黄色(とうこうしょく)、腰部は赤みの強い橙黄色、腹部は純白。
<生態>
地上から2mまで、色々な高さに直径10cmほどの球状の巣を作る。子育て用と休息用があり、子育て用のものは大きく緻密。1産2-8子。球巣が荒らされると、危機を感じた葉母ネズミは近くに新たに球巣をつくり引越しをする。巣は完成までに4-5時間かかる。完成すると一匹ずつ子を咥えて移す。一晩がかりの大仕事である。子は3週間で独立。野生での寿命は半年。
【家ネズミ】
ハツカネズミMus musculus・・・尿は特別な匂いを持ち、押し入れの布団の被害で気付くことがある。種子食的な雑食者。浦安に大きな家を持つ。
クマネズミRattus rattus・・・物によじ登る力に優れ、排水管や電気配線を伝う。種子食的な雑食者。
ドブネズミRattus norvegicus・・・ 下水から台所を生活空間とし、動物食好みの雑食者。
【ハタネズミ】Microtus montebelli
<形態>
背面は赤みの無い茶色~灰黄色を帯びた灰赤色。腹面は灰白色。
臼歯を前後にすり合わせて繊維質の固いものを消化する。盲腸も長く、バクテリアによってセルロースを分解する。
後足の裏の球数が5であれば、確実にハタネズミ。6ならハタかスミスかヤチか分からない。頭骨の口蓋末端部が棚状になっているのがハタネズミで、垂直に落ちているのがスミスネズミやヤチネズミ。
<生態>
農林業上の害獣で、日本固有種。野外での寿命は1年で、1産4-5子。2週間で離乳、1.5か月で成体。関西以西では春と秋に繁殖。
低地から高山帯まで広く分布。水田、畑、河川敷、牧草地、造林地などの草原的な食性を好み、純粋な草食生活者である。天然林やハイマツ帯まで出現する場合は、スミスやヤチとの識別が重要。
地中に坑道を掘り、モグラのような生活をする。モグラの坑道を利用する。畑の根菜や植林苗のヒノキや待つの幹を食害する。坑道の途中には3.5cmほどの穴が地表面に開いている。穴の周りの草は齧られていたり、7mmほどの黒緑色の糞が落ちていたり、穴に草が引き込まれたりしている。
明治から大正にかけて、東北、北陸でダニの一種ツツガムシの唾液の中にいるリケッチアによって農民が亡くなっている。現在発生しているツツガムシ病は、アカネズミに寄生したダニにより、リケッチアの種類も異なる。
【参考文献】
『週刊 朝日百科 動物たちの地球 哺乳類Ⅱ⑩ ネズミ・ウサギ』
朝日新聞社/1992年/520円
『日本の哺乳類』東海大学出版会/1994年/3800円