jizakiの備忘録

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VideoNews2007.5.18.「フランス大統領選が露呈したグローバル化の現実」萱野×宮台×神保(視聴メモ)

【概要】

番組前半は、サルコジ当選を期して、フランスの格差問題や、アメリカとの覇権争いについて語っている。 

後半は、グローバル化によって「国家の振る舞い」が領土的なもの(国民を中流として育てる)から脱領土的な許認可のルールによる権限へとシフトしていることと、「希望は、戦争。」 問題について。在特会ナショナリズムにも通じる話。

 

【視聴動画】

マル激トーク・オン・ディマンド 第320回(2007年05月18日)

「フランス大統領選が露呈したグローバル化の現実」

ゲスト:萱野稔人氏(津田塾大学国際関係学科准教授)
 
【2007年5月の社会的事件】
子供が母親を殺して、腕を切り取ってスプレーで白く塗って、鉢植えに植えた。
少年犯罪は増えてはいない。戦後に比べたら劇的に減っている。しかし、少年犯罪の猟奇化という傾向はあるかもしれない。しかし、報道は事件の細部を拡大してセンセーションに訴えるものだから、細部に過剰に反応しても仕方がないが。
 
【不安のポピュリズム
メディアは、「つかみ」だけで「なかみ」がない。人びとの不安に乗じて、警察権力が人気取りをして、権力の源泉を調達している。少年犯罪の厳罰化には、被害者の人権救済をリベラル側が聞いてこなかった、という面もある。
 
【 2005年、フランス「移民」暴動】
フランスは、「グローバリゼーション」や「貧富の格差」に反対する、というイメージがあるジョゼ・ボヴェ三色旗)が、なぜサルコジに人気が集まったのか。
暴動の起こった地域は、極右政党の人気が高い。見捨てられた地域。国内の第3世界。暴動を起こしたのは、政治的運動さえできない層。「国民の恩恵」から排除されたくない、という思いが、移民排斥運動に。
経済的な排除が、アイデンティティの問題に変わっていく。このようなナショナリズムを続けていれば、貧困層は最後は自分の首を絞めてしまう。
仕事を奪っているのは国内移民ではなく、工場の海外移転。
それに対して、若者のCPE(初期雇用契約)に対する反対運動は、政治運動出来る層。
 
新自由主義改革】
サルコジの考えは、「フランスの労働運動の強さが国際競争の足かせになっている、国鉄などの国営企業の民営化を狙う」というもの。
  
【フランスの覇権主義
フランスは、グローバリゼーションに抗っているのではなく、アメリカの覇権に抗っている。フランスは、ヨーロッパ内では「アメリカの振る舞いの縮小版」的な覇権主義
アメリカが「カリブ海」を「自分の庭」だと思っているように、フランスは「北アフリカ」を「自分の庭」だと思っている。
 
【国家の役割】
国家が保守するのは、領土的なものから、ルール的なものに変わりつつある。イラクのフセインが、今後は石油を「ドル建て」ではなく「ユーロ建て」で売る、と言ったらアメリカに「大量破壊兵器」のいちゃもん付けられて攻め込まれた。
基軸通貨=ドルの防衛としてのイラク戦争については、以前にこのブログに書いた。↓
イラク戦争で「反アングロサクソン」の旗を上げるのは、公的な国際秩序のためではなく、実はフランスの覇権のため。フランスは国際社会に自分のagendaを売るのが上手い。
 
【「公正な再配分」の範囲】
南北問題では、「南の人間」が困窮している一方で、「北の人間」が国内で「公平」な再配分を行ってきた。同様の構図で、「労働組合」も、国内の非正規雇用に関心を示してこなかった。
今は、北の国にも貧困が広がり、正社員にも過重労働が広がっている。 
「公平な再配分」と言った時、「その範囲の外」はどうなっているのか、という問題。 
この時に、「国家批判」は何を言っていることになるのか。 
 
【国家は無くせない】
萱野は大学生の時に宮台の『権力の予期理論』 を読んで、「国家は無くせない」と言っていていいな、と思った。
国家を無くしても、社会や暴力は無くならない。管理された暴力か、管理されていない暴力か、どちらがいいのか、という問題。
「国家批判」をした時には、暴力が設定する「恣意的な範囲・ルール」に関して、「オマエモナー」となる。例えば「家長としてルールを制定する」こと、など。
 
【国家の役割変化】
グローバル時代の国家の役割について。PARC太平洋アジア資料センターの発行する『オルタ』2007年4月号の論文「哲学はわからないものだから心配するな(4) グローバリゼーションのなかの国家 萱野稔人」から。
グローバル化で国家・国境が無くなる」という説は、一時はやったが、逆に強くなっている。合法的な暴力の独占、は変わらない。
国家は消滅するのではなく、役割が変わってきている。それが、どのように利権を生むか、や、どのような振る舞いをするのか、が変わる。金融行政のやり方の変化と、検察の厳罰化は、この間の動きを反映。
 
【戦後体制】  
戦後体制とは、旧ファシズム国家(枢軸国=日独伊)を、連合国(米英仏露中)に歯向かわないように管理する体制だった。(jizaki:日本の平和憲法には、そのような側面を読むこともできる。)しかし、連合国は「ファシズム体制」の全てを否定したのではなく、継承しているものがある。それは、「恐慌(=不況=デフレ)」を「戦争という公共事業」によって乗り越える、という運動。 
また、戦後体制とは、冷戦という「核戦争の恐怖」によって、軍需産業という「公共事業」を回してきた体制。実際に兵器を使うことをしないで、兵器を作り続けることをしたのが、戦後体制という公共事業だった。ソ連崩壊義は、「テロリストに対する恐怖」を掻き立てて、戦争経済を維持している。戦争経済は、軍産複合体が、資本主義を回していくうえで、不可決な要素となった。「冷戦構造」から「対テロ戦争」で儲けているアメリカに敏感なのがフランス。
戦前=ford型:必要を満たす(=実際の戦争)
戦後=GM型:不必要な付加価値(=戦争のふり)
 
戦後レジームからの脱却】
では、安倍の「戦後レジーム(体制)からの脱却」とは何か。日本は軍需産業を禁じられてきたので、戦争経済に参入してデフレ脱却したがっている。「武器輸出の三原則」見直しは、この路線で考えるべき。冷戦が終わっても、アメリカなどは「対テロ戦争」で経済を回しているのに、日本が参加できないのはおかしい。 
朝鮮戦争での「朝鮮特需」のような資本蓄積を再び経験したい。
対外的に戦後レジームを脱却するにしても、今はアメリカに追随するしかない。しかし、日本はそこまで許されていない。中韓との戦後問題の清算。(jizaki:中韓が閣僚の靖国参拝に反発するのは、日本が「戦前のアイデンティティ」に回帰して重武装化し、覇権主義的になることを警戒している面も読み取れる。) 
脱却が外に向かうのではなく、内に向かって「憲法改正」となる。 神経症になったインコが自分の毛を毟ってるみたい。
「アメリカの都合が変わったから憲法改正」とは、結局アメリカの枠内から脱却できていない。アメリカについて行くことには変わらない。もちろん周辺国からは警戒される。
 
【民営化で権限強化】
国家が脱領土化すれば人々が自由になる、ということは無い。資本が回る差異の資源が、「領土的な差異」から「ルールが作り出す差異」に置き換わるだけ。
「戦争の民営化」は「業務の委託」であって、「権力の移譲」ではない。実行部門はアウトソーシングする。持ち株会社のような。国家の実行部隊が小さくなった分だけ、実行責任や現場責任を問われなくなるし、「許認可の権限強化」になる。
「権限」を保持しつつ、「責任」を逃られるのが、民営化の最大の要点。
 「田中角栄」の、領土に根差した「けいせい会」の利権を潰したのが、小泉首相の構造改革で、結果的に脱領土化した許認可による利権→「金融利権」や「宮内ORIX」が出てきただけ。監督権や決定権でもって、金品を吸い上げる。
 
【外国人労働者】
国家は、同質の労働力を提供する身体に対して、恣意的にセグメント化をする。日本人と中国人で、賃金が違う。これなくして、グローバル化は有り得ない。
 
【国境】
「合法的な暴力行使」が意味を持つようになるのは国境の内部なので、国境の画定が、「国家間の相互承認」の基礎となる。→「ヤクザの縄張り(シマ)」ですね、
「暴力行使の現場」が、陸(スペイン)から海(イギリス)、海から空(アメリカ)、空から宇宙(米ソ)へ、どんどん抽象化(脱領域化)してきた。その都度、国境の意味は変わってきた。
例えば、宇宙開発。 宇宙における暴力行使は、国境とどう関係があるのか。
 
グローバリズムの進行に伴って、ナショナリズムが勃興している。
原因①:生活・経済・アイデンティティの不安 →セキュリティを高めろ、セキュリティ産業の利権創出。
原因②:生産関係や社会関係が、どんどん、領土に基づかないようになっている(脱領土化)。どうやって、帰属を明示するのか。
これまでは国家が、領土内の住人に再配分して、生活状況を向上させ、それによって、「暴力を独占していること」への同意と権力を調達してきた。しかし今は、領土内の住人という参照枠を持てなくなった。何が参照枠になるのか。国民の再配分は二の次になってきている。在特会をはじめとする最近の「排外主義」には、このアイデンティティの不安がある。
 
【資本=国家の本来の機能】 
今までの議論は、国家と資本主義を別物と考えて、両者がどう結びつくか、と考えていた。違う。吸い上げる(略奪・収奪する)、という共通の運動(暴力による強制)から両者は起源し、それが分化したもの。
市場は「パレート最適点」という「資源の最適分配」を達成するが、それは初期手持ち量を「与件」とする。「恣意的な初期手持ち量」を確保するための「暴力」。
イギリスもアメリカも、拡大する時点で必ず戦争をしていて、相手国の船を自由に略奪してよいというお墨付きを与えている。それがボストンやフィラデルフィアに荷揚げされて、アメリカ資本主義の最初のドライブになっていく。同様に、イラク戦争ハリバートンに略奪権を与えている。
フランスはイラク戦争後に収奪のフェーズに入った段階でも、収奪に参加しなかった。政治で決めたことは覆しにくい。北アフリカから中東問題に関しては、フランスはアメリカとは異なる方針を持っている。
 
【赤木論文】
論座『「丸山真男」をひっぱたきたい 31歳フリーター。希望は、戦争。』に対して、知識人からの「戦争に行かされるのは君のような貧困層なんだよ」、と諭す反応。ずれている。萱野だけが、赤木の問題の所在を把握した。
「尊厳dignity」の問題。安全圏で、すでに承認された連中が、何を言っている。赤木には社会の中で居場所がない。そのことを通じて、社会にルサンチマンを抱く。例えば階級社会であっても、その階級社会の中で居場所感情を持てば、社会に対する不満は出ないのだが。貧困層が脱社会化される、という問題。
諭しに対する反発は、大金持ちより左翼に強く向かう。 格差肯定の大前研一には、向かいにくい。旦那やお大尽に承認されたい欲求。左翼は、赤木にすれば「ニーチェの言うキリスト教」に見える。
多くの人は、正しいことを言う人間にではなく、自分を認めてくれる人間についていく。社会の中での「承認」を求めている。「フリーターの生活苦による自殺」より、「戦争における英霊の戦死」の方がいい。
人は経済や貧困だけでなく、アイデンティティでも動く。そこに、どのように語りかけることができるのか。宗教的な背景なく、出来るのかそんなことが。
宗教や国家が、個人を死にまで導くことができるのは、死の永遠性を語ることができるから。(jizaki:宗教哲学や自然哲学にも、その力はあると思う。)