jizakiの備忘録

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VideoNews「われわれは歴史を正しく語り継いでいるか」江川達也×宮台×神保(視聴メモ)

【概要】

7年前の靖国問題だが、今でも参考になる話があった。2006年の小泉首相の靖国参拝に関わる、内政・外交上の問題について。サンフランシスコ講和条約は、A級戦犯だけを悪者にして天皇・国民・朝日新聞を免罪する、という「手打ち(フィクション・ネタ)」であった。そのA級戦犯を合祀している靖国を首相が参拝するから、アメリカや周辺国にすれば「あの「手打ち」をひっくりかえすのかよ」と思われ、話がややこしくなる。

 

【視聴動画】

マル激トーク・オン・ディマンド 第276回(2006年07月14日)

シリーズ『小泉政治の総決算』 その1
「われわれは歴史を正しく語り継いでいるか」

ゲスト:江川達也氏(『まじかるタルるーとくん』、『東京大学物語』などの漫画家)
 
【2006年7月の情勢】
小泉改革の規制緩和利権に群がる連中。ORIX宮内、村上ファンド、労働法制の審議会に参加する派遣業者。丸山真男が批判してきた、「公を語りながら私腹を肥やす」姿勢。
 
VideoNews登場3回目。『日露戦争物語』で、自分で資料を調べながらこの時点では日清戦争を長く描き続けている。アヘン戦争からの流れを見なければ、戦前戦後の歴史の流れは分からない。
これまでの歴史解釈は、あまりに左寄りではなかったか、という感想。
前の遊就館の展示は良かった。多くの場所で断絶されてしまった、戦前からの歴史認識を引き継いでいる。今の展示はミーハーすぎるが。
 
【幕末】
幕末のドラマなんかは多いが、肝心な話を抜いている。西郷は偉い人だったが、征韓論を唱えていて、人物像が不統一になっている。西郷の征韓論は、プロシアサルディニアの統一と近い感じ。長州や薩摩は、江戸より韓国や台湾に近い。大アジア主義
 
【明治~戦中】
西郷隆盛は、大アジアでまとまろう、と考えていた。 
明治維新を生き残ったエリートは、リアリスト。馬鹿な新選組なんかは、淘汰された。「賢いマキャベリスト」と「国益計算のできない国粋主義者のパー」が、20年おきに国のトップの座を入れ変わりしている。明治初期に、改革を利権にした連中がいた。今と同じ面もある。
日清・日露までは、大本営に伊藤博文なんかが入っていて、軍事と外交が両輪整っていた。
満州事変後の戦争は、西郷なんかの大アジア主義を陸軍が簒奪して暴走したもの。宮沢賢治イーハトーブと「満州国」は重なっている。宮沢賢治石原莞爾は世直し宗教の法華経を信仰。公明党も法華経
 
【戦後の米による情報操作】
戦後の日本国民は、米GHQの「ホワイトパージ」によってマインドコントロールされている。情報統制され、戦前の話が全然議論されていない。とくに、「明治前半」を整合的に語れていない。司馬遼太郎は、日本の中にばかり目を向けて、世界の状況がどうなっていたか、あまり書かない。史実を知っていても、国民に受けるような物語を書いた。
アメリカが占領政策をうまくやるために作ったフィクション(ネタ)が全員の脳にインプットされている。沼昭三が『家畜人ヤプー』で日本人の家畜化を書いたら、GHQに発禁にされた。
 
【日本の戦争責任】
サンフランシスコ講和条約と東京裁判の最大の問題は、日本国民を免罪したこと。戦争に負けたから、アメリカの言うように手打ちするしかない。しかし、これは手打ちなんだ、ということを意識して語り伝える必要があった。教科書には書けないが、その外で書き続けられる必要があった。手打ちという「ネタ」が、いつの間にか「真実」として信じられるようになって、「ベタ」になってしまった。戦場での個人の犯罪や責任が、公的に広くは語られなくなった。古本やサブカル本にはあるが。
日本人は、「戦後のドイツ人」が持っているような加害感情・自業自得感・主体的プレイヤー感を放棄して、「戦争に対する被害感情」を持ってしまった。
日本は「反省」はしないが「謝罪」はする。周辺国にとっては、何を謝られているのか分からない。しかし、それに乗っかって利用としたのが中韓で、これも稚拙である。本当はもっと歴史の原因と責任を突き詰めるべき。
 
【朝日新聞】
朝日新聞は、最も戦争を翼賛した。大阪毎日新聞が戦争支持の生地で大きく部数を伸ばしたものだから、朝日新聞もその売り上げ戦略に乗った。戦争報道で大きくなった。
新聞社にも、お金を儲けたい、という気持ちと、人に認められたい、という気持ちとがある。元々の朝日新聞は、右でも左でもなく、ポピュリズム新聞だった。戦後、免罪されたことを忘れて、天皇の戦争責任という特集を組んでいく。被害者感情で戦前の政治を断罪するのは気持ちいい。「てめえ、このやろう! お前の責任をまずはっきりさせろよ!」という話。
 
【ドイツの戦争責任】
ドイツでは、ヤスパースの『罪責論』からヴァイツゼッカー大統領の演説までの系譜がある。ドイツとしては誰にも謝っていない。何故なら、罪は人それぞれだから。若かった奴、赤ん坊に罪は問いにくい。情報知ってた奴知らなかった奴を一括できない。ドイツが東西に分かれてしまって、国家として賠償できなくなったことも大きい。企業、自治体、国が、クレーム付けてきたものに対して結構アバウトに保障している。今でも。そうして、ヨーロッパの中で信頼を回復してきた。ヒットラーを選んだ、という政治的責任を引き受けている。
エンツェンスベルガー『何よりもダメなドイツ』。罪は個別なので謝罪はしないが反省はする。失敗の原因を個人が考える。 
 
【日韓条約】
戦後、日韓条約で政府間で賠償を結んだが、これは国際法上おかしい。韓国は植民地ではなく、日本の領土の一部で、それが独立した。西郷の大アジア主義に淵源。それに賠償を払うのはおかしい、というのが国際法上の常識。しかし「日韓条約」はアメリカの意向で決まったので、この話を今から蒸し返すと、波及効果がどこに向かうか分からなくて、手をつけがたい。
中韓にも、同様のフィクションがあって、大衆は騙されている。
 
【強制連行】
在日の大半は強制連行ではなく、日本にわたって一旗揚げようとした人達。しかし日本の学校では、大半が強制連行であったかのように教えられてきた。朝鮮半島も、これは利用できると「お話」に乗ったし、在日も弱者利権の獲得、左翼はポジションの獲得のため都合の良いお話だった。韓国で在日が人気ないのは、国を捨てて日本で成功しようとした売国奴、という扱いをしている。(jizaki:一旗揚げようと異郷の地に渡ることを、ここでの江川や宮台は否定的に語っているが、それはどうなのか。肯定したらいいじゃないか。)
 
 【小泉政権】
江川の評価としては、北朝鮮に拉致認めさせたことの意義が一番大きい。これによって、日本の左右の攻防が逆転した。これによって似非左翼のウソ(フィクション)は通用しなくなったが、バカ右翼の言説も強くなっている。左翼に抑圧されてきた不満が溜まっている。「作る会」などの右翼は、自分にとって気持ちのいい美談だけ並べるのではなく、歴史の流れや整合性に留意して欲しい。
 
小泉は、もともと靖国に何の関心もなかったが、「遺族会」を橋本竜太郎から引き継いで、票田として恩義を感じるようになって、参拝した。靖国に祭られているのはアメリカと戦った人間。そんな奴がアメリカの言いなりって、変じゃないか、とアメリカから突っ込まれている。馬鹿だから。
A級戦犯だけが悪かった、それが靖国神社に祭られている、という「サンフランシスコ講和条約」という「お題目(=手打ち)」。代わりに天皇・国民・朝日新聞すべて免罪された。 
A級戦犯が悪かったことにして手打ちをしたのに、靖国参拝するとA級戦犯を擁護、復権させることになる。手打ちをひっくり返すことになるので、両国の関係の最初のところがあやふやになる。
毛沢東周恩来は、サンフランシスコ講和条約をフィクション(ネタ・建前)として理解している。周恩来は日本にも住んでいて、親日。20世紀初めの中国エリートは、互いの言葉では通じないから、共通語は留学していた日本語。そういう世代が死んでいくと、フィクション(建前)を本当に信じてしまう人が増えてくる。
中国の靖国抗議は、ポーズなのか本気なのか、どっち? と耳元で非公式に聞いたらいいのに。中国も世代交代が進んで、ネタがベタに変わっている節があるかも。
靖国問題に関係ないように見えるアメリカが、一番関係ある。
アメリカにとっての日本のうまみは、軍事的には基地提供と軍事的に共同して動くことだが、外交上は、小泉首相の靖国参拝問題でアジア諸国と関係悪化してて、使いでがない。ブッシュは小泉に、「中国との関係どうするんだ」と聞いてきている。
外交の大人の駆け引きが下手。
今できる最善の策は、分祀をして、天皇が参拝することくらい。アメリカも含めた各国民の啓蒙無くして、根本的解決は難しい。
 
【外交】
手打ちが、フィクション(ネタ)として理解されているか、本気(ベタ)で理解されているか。
国民世論は、外交上のリソースになることもあるが、焚き付けると暴走して、コントロールできなくなる。
安倍晋三も、北朝鮮拉致問題で強硬な態度で人気が出たものだから、引っ込みがつかない。
 
おしまい