jizakiの備忘録

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読書メモ『資本主義という謎』水野和夫×大澤真幸

【概要】

資本主義の発生と変容。金融経済のバブルからデフレへ。資本の国際移動を理論的に把握できない経済学。未来の他者。

 

【書籍】

『資本主義という謎 「成長なき時代」をどう生きるか』/水野和夫×大澤真幸/NHK出版新書/2013年/680+税

 

<近代>

【桐島、部活やめるってよ】

この映画には、桐島自身は一度も登場しない。成績優秀で社交性もあり、運動部で活躍し可愛い彼女もいる桐島は高校生活のスーパースターであり、その存在はイケてない高校生にとっても「救い」になっている。桐島が幸福であることが、他の高校生の救済になっている。

桐島が部活をやめるという噂を間接的に聞いているだけで、また桐島が学校にも出てこなくなったことで、桐島と直接関係のいない生徒まで動揺が広がる。

資本主義社会のスーパースターが、突然その役を降りて姿を消すことがもたらす波紋のありようが、現代社会の寓意になっている。

  

【近代の精神=企投Project】

「近代科学」は、「真理」を仮説の形で提出して検証し、それが立証された後も、反証される可能性を残しているので、新たなパラダイムへと変身を遂げることができる。以下同様に進み、近代科学にとって「最終的な真理」は存在しない。

「近代資本主義」も同様に、「最終的な投資」は存在せず、次の投資に向かう。

 

<資本主義> 

【市場経済と資本主義】

「市場経済」は、価格に準じて需給を一致させるメカニズム。消費と生産の仲介。流通・販売部門。狭い共同体内では価格競争は破壊的にならない。

「資本主義」は、利潤を極大化しようとする運動。生産から消費までの鎖が長くなることで、市場経済の持つ価格調整メカニズムが発揮されて、また共同体の慣習的な規制や取り締まりを逃れて、巨額の資本蓄積が可能になる。

 

【資本主義の発生】

12~13世紀の西ヨーロッパで、資本主義の仕組みが発達。しかし当時は東西をイスラム勢力に抑えられていた。

メディチ家は、金を貸した相手にヴェネチアとロンドンで両替させて、教会の利子禁止に形式上は抵触しないようにしながら、実質的には利子を稼いでいた。宗教の禁じる「強欲」の精神。16世紀の宗教改革で利子が公認され、大航海時代で「世界経済」に拡大。 

 産業革命以降、高所得国の人口は世界の15%で一定。「15%対85%原理」

 

【植民地統治の違い】

陸のスペイン、海のイギリス。スペインは土地を支配下におさめようとし、イギリスはインドやシンガポールなどの港を点で押さえ、誰のものにもないにくい海を自国の法律に組み込んで支配した。点を海でつないで面にする発想。

スペインの無敵艦隊も、陸軍に所属していた。スペインは南米から金銀を収奪して、イギリスは北アメリカに投資してリターンを得た。長期的には投資の方が上がりが大きい。

この統治原理の違いがもたらした社会の発展の相違は、南北アメリカの格差に反映している。南米では大地主が社会の発展を阻害してきた。

 

【資本の優越】

ネイション・ステート(国民・国家)からの資本の遊離が進んでいる。

20世紀半ばまで、大企業と国民国家は一蓮托生だったし、経営者には愛国者が多かった。フォード、GM、松下etc。

今は、「国民」や「国家」は「資本」の後始末を付けさせられる、使用人の位置に落ちつつある。土地や株などの証券といった「資産価格」の上昇で巨額の富を得た人が、それが下がった時に公的資金で救済され、その負担が消費税などの形で広く薄く国民に転嫁される。

 

【ギリシャ危機】

ギリシャをEUに入れたのは、日本にとっての京都のような位置づけだから。トルコの方が経済的には巨大で健全で安定。本当はギリシャもトルコと同じくらいオスマン帝国なのだが。

ギリシャ問題が発覚するまで、ドイツ資本の一人勝ちだった。ドイツでも1%が富を得る、格差拡大が進んでいる。弱いギリシャをユーロに加盟させて貸し付けをして儲けたのは、1%の ドイツ人。しかし99%のドイツ人の賃金は上がらないから、ギリシャに対する連帯感が生まれない。

ギリシャ危機によって、ギリシャの銀行が債権を安値に切り下げた時にドイツの資本が総取りすれば、おいしい。それを狙っている。

 

<中国> 

【中国経済】

新興国が先進国に追いつく過程でインフレが起こるが、追いついた後は、デフレに陥る。16世紀にイタリアに追いついたイギリス然り。

経済が膨張する時、適正水準で落ち着くのではなく、必ず過熱して過剰な「設備投資」となる。需要が飽和したのに供給過多になり、デフレが起こる。

中国が過剰設備状態になって先進国のようにデフレに突入すると、日本への影響は大きい。日本が中国に投資すればするほど、不良債権になる。できるなら、そうならないうちに投下資本をすべて回収できればいいが。せめて合弁会社などにしてダメージを減らすべき。

 

【覇権国になれない中国】

アメリカのように「覇権原理」を示す、という「説明責任」を果たせていない。 国民に対しても、「統治原理」を示せていない。国内外の人々から、「色々文句はあるけど、まあ受け入れます」という同意を取り付けるような、覇権や統治の原理を示すインテリジェンスが必要。

  

<日本>

【戦後日本の時代区分】

 年代  経済       社会思想

~70’s インフレ経済 = 理想の時代、高度成長(できるんだと思ってる)

~80’s バブル経済  = 虚構の時代(できないのに、できると思ってる)

~10’s デフレ経済  = 不可能性の時代(できないんだと思ってる) 

 

虚構(バブル)の時代は、もう成長できないのに金融バブルを作って額面上の成長をした。北斗の拳で、秘孔を突かれて死んでいるのに歩き喋っている人間や、ディズニーアニメなどで、空中に飛び出したのに、まだ足元があるかのように空中で足掻いているキャラのような。

 

【日本政府の借金】

1000兆円。GDPに対する債務残高の比率は2倍を超える。ダントツの世界一位。

これ以上増えないようにするためだけに、40兆円/年の増税が必要。

財政均衡」は、その時の経済・社会構造が既存のシステムに適合しているかどうかの判断が「財政収支」に集約的に表れるので、重要。

巨額の国家債務を増税によって均衡に復す、というのは既存のシステムに対する反省の姿勢がない。 ゼロ成長社会で、国家債務1000兆円をどう返すか考えなければいけない。

 

【日本の破産】

日本は毎年40兆円を「財政赤字」で借金している。誰が貸しているかというと、15兆は「年金」の運用先として流れ込んでる、15兆は企業が過去の過剰設備投資の「借金を返す」という形で流れ込んでる。10兆は日銀が量的緩和策で国債を買っている。こうやって国は、毎年40兆円の借金をなんとか借りられている。例えれば、債務超過の企業があったとしても、銀行なりが貸し続けていれば倒産しないのと同じ。

日本の企業資産は1200兆円、個人資産は1000兆円。もし、「政府+個人+企業」の「連結日本株式会社」だとすれば、「政府の借金」に対して「企業と個人の資産」を担保として保証できるが、それはどうなのか。

日本の市民の預金が減るときが、危険。日本市民が日本の「国債」を買えなくなり、外国の投資家が買うようになる。しかし、投資家は各国の国債の利回で最も高いところを買うので、たちまち日本国債の利率が上がって、国債を償還できなくなり、破産が現実的になる。

日本の預金はあと10年は増えるので、それまで問題を先送りにすることはできるが・・・。

 

<経済> 

【インフレ→バブル→デフレ】

実物経済の膨張がインフレで、金融経済の膨張がバブル。実物経済が成長しなくなったからバブルが生じ、バブルがはじけるとデフレになる。

この30年で、世界的に9つのバブルが起こっている。つまり、2年はバブルで成長するが、それがはじけた後の不況は2年間の成長を吹き飛ばすくらいの信用収縮が起こり、雇用者所得や企業利益が減少する。ゼロ成長を目指しておけば、バブル後のダメージがない分だけ、豊かさの維持が出来る。

この傾向性によれば、アベノミクスと日銀の前例のない量的緩和は2015年に世界のどこかでバブルを弾けさせる。

 

【近代経済学が古い】

今までの近代経済学は、「国民国家」を前提として、その枠内で「需給の一致」などを理論化してきた。だから、各国経済の総和として「世界経済」が生じる、と想定している。

しかし現状は、資本が国境を越えて自由に移動していて、「世界経済の部分」として各国経済がある、という状態。

また、「金融工学」の発展によって貨幣が貨幣を生む過程が進展すると、「貨幣量の把握」なんてできない。 また、株式交換で企業買収が出来るようになると、どこまでが「貨幣」か、という定義も難しい。貨幣に関する新しい理論が必要。

私たちは、利子率の下がった「中世の秋」に倣って、「近代の秋」にいると言ってよい。 

 

<格差> 

 【累進しない所得税】

所得税は1億円の所得に対する28%でピークアウトして、そこから逆に下がる。100億円の所得のある人は、13.5%まで下がる。この負担率は年収1100万円の人と同じ。100億円の所得がある人は給与ではなく、株の売買による。金融所得に軽減課税しているのはおかしい。

 

【先進国内の二極分解】 

それまでも、企業間の賃金格差はあったが、いずれも生活水準は上昇していっていた。

1990年代半ばから大企業の賃金は上昇し、中小企業の賃金は下落する二極分解が始まった。自動車、電気機械、鉄鋼などの大企業は「海外市場」と結びついて成長し、中小企業と非製造業は「国内市場」が売り上げ先なので利益が上がらない。

 

【略奪的貸付】

資本の低利潤化が長期化すると、「国内の労働者」を貧しくすることでしか、資本主義を維持できなくなる。「サブプライムローン」は、信用力の低い労働者から略奪する貸し付けだった。

所得の二極分解は、近代国家の中核をなす中産階級を没落させる。

 

<未来>

【未来の富】

ダンテは、「未来世代の発展のために努力せねばならぬ」という正統派保守主義を唱えた。対して、ネオコンネオリベは「時価会計、連結会計、税効果会計」などを導入して、未来の富を先取りしようとしている。未来の人間が受け取るべき利益を、極力過大な割引価格にして受け取ってしまっている。

 

【未来の他者】

今、私たちが「享楽的な世界」に生きていても、説明しがたい悲しみや憂鬱、閉塞感から逃れたいという「渇望」を抱え込んでいる。その悲しみや憂鬱、渇望こそが「未来の他者」の現在への反響なのだ。

未来の他者と、いかに連帯するか。私たちは「自分が儲けるため以上のこと」を、仕事や社会的活動の中でやっている。あるいは少なくとも、そのように仕事をしたい、活動をしたいと思っている。単に自分のための利益を得る以上の意味が宿るためには、他者から呼びかけられなくてはならない。